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名古屋地方裁判所 昭和48年(ソ)2号 決定

抗告人

安藤重秋

右抗告人代理人

清水幸雄

主文

原決定を取消す。

理由

第一抗告の趣旨および理由

別紙記載のとおり

第二当裁判所の判断

一一件記録によれば、抗告人が昭和四六年一二月二三日名古屋簡易裁判所に、約束手形六通につきこれの無効宣言をうるための公示催告の申立をなしたこと、同裁判所が同日右申立を昭和四六年(ヘ)第二三二号約束手形公示催告申立事件として受付け、昭和四七年一月六日、右申立を許容すると同時に公示催告をなし、これの公示催告期日が昭和四七年八月九日午前一〇時と指定されたこと、右の公示催告書正体および右期日呼出状が同年一月七日抗告人代理人(森田久治郎)に適法に送達されたこと、右公示催告期日には抗告人および抗告人代理人(森田久治郎)はいずれも出頭しなかつたために右公示催告手続がいわゆる休止となつたこと、抗告人代理人(森田久治郎)が、昭和四七年一二月二九日、右裁判所に対し、新期日指定の申立をなしたこと、右申立に基づき昭和四八年一月九日に右事件の新期日が昭和四八年一月一二日午後一時と指定されたが、右新期日の呼出は期日指定の裁判の告知という方法で同月九日頃抗告人代理人(森田久治郎)に通常郵便(封書)により通知されたこと、右新期日にも抗告人および抗告人代理人(森田久治郎)が、いずれも出頭しなかつたこと、抗告人代理人(清水幸雄)は、右公示催告手続が再びいわゆる休止となつたものとして右裁判所に対し、右事件につき同裁判所同年五月二八日受付にかかる新期日の指定申立書に基づき新期日指定の申立をなしたこと、右裁判所が同月二九日、最初の公示催告期日から六カ月の期間内に限り、かつ、唯一回に限り、抗告人において新期日の指定の申立をなしうるに止まるとの理由により、本件公示催告手続がすでにすべて終了したことを前提として、右申立を却下する決定をなし、右決定は同月三〇日抗告人代理人(清水幸雄)に送達されたこと、抗告人代理人(清水幸雄)が右決定を不服として、同月三一日当裁判所に対し、本件抗告をなしたこと、以上がそれぞれ認められる。

二民事訴訟法第七七一条は、公示催告申立人が公示催告期日に出頭しなかつたときは、新期日指定の申立をすることができ、その申立は公示催告期日から六カ月の期間内に限り許されると規定する。これは公示催告申立人が公示催告期日に出頭しない場合は、右期日を実施することができないから、公示催告手続をいわゆる休止忙なつたものとして取扱い、右申立人が公示催告期日から六カ月の期間内に新期日の指定の申立をしない場合には当該公示催告手続は右の期間満了時に当然終了する(いわゆる休止満了)という公示催告申立事件の処理の一方式を規定したものと解すべきである。ところで、公示催告申立人が、右新期日にも再び出頭しない場合を如何に取扱うかという点については、右規定のみからは必ずしも明らかでないので、この規定およびとくに同法第七七二条ならびに公示催告手続全体の構造等からこの点を考えてみる。

公示催告手続は、本来、当事者の申立に基づき裁判所が公告の方法で不特定不分明な利害関係人に対し請求又は権利の届出を催告し、その届出がない場合には失権の効果を生ぜしめる手続であつて、すなわち、右申立があると、裁判所はこれを許容すべきときは公示催告期日を指定して同期日および同期日までに請求又は権利を届出るべきこと、これの届出をなさないときは失権すべきこと等を公示の方法をもつて催告し、右の公示催告期日に申立人らが出頭の上除権判決の申立をなし、裁判所は口頭弁論をひらいてこの申立を審理し、この審理に基づき右申立につき裁判するのであり、これらの手続全体の構造から考えるとき、この裁判は前記の不特定不分明な利害関係人に対する公示催告によつて公示された内容となるべく異ならない状態の下でなされることがこの手続の性質上好ましく、殊にこの裁判は右公示催告によつて公示された公示催告期日における審理に基づいてなされることが望ましく、公示されない期日における審理に基づいてなされることはなるべく避けるべきことが要請されているとみるべきである。

特に、本件の如く、証書無効のための、公示催告にあつてはこの手続が、喪失証言についての取引上の安全保護、いわゆるこれの動的利益の保護の犠牲において証書の喪失者の保護、いわゆるこれの静的利益の保護をはかろうとするものであるから、前記の要請は一そう顕著である。

以上の各点から考えると、民事訴訟法第七七一条、第七七二条の規定は、除権判決(又はこれの申立を却下する決定)は、原則として公示催告で公示された公示催告期日における審理に基づいてなされるべきであるが、しかし他面、申立人の便宜を考慮し、申立人が何らかの事情により右公示催告期日に出頭できなかつたときは、例外的に申立人において右期日から六カ月の期間内にかぎり、かつ、唯一回にかぎり、公示催告手続を完結するための新期日の指定の申立ができ、しかもその場合には新期日の公告も不要である旨を定めたものであると解するのが相当である。従つて、公示催告申立人が、適式の呼出をうけたにもかかわらず、右の新期日に再び出頭しなかつた場合には当該公示催告手続は新期日の終了とともに当然終了するものと解すべきである(この場合、申立人としては必要とあれば公示催告手続をはじめに戻つて最初からもう一度やり直すべきであるし、そうすることを排斥する理由はないと解される。)。

この点についての原審の判断は右と同趣旨に出たかぎりにおいて首肯することができ、このかぎりにおいて原審の判断には抗告人主張のような違法はない。

しかし、職権によつて調査すると、本件にあつては、抗告人代理人から昭和四七年一二月二九日に新期日指定の申立がなされ、これに基づき、新期日が昭和四八年一月一二日午後一時と指定されたのであるが、この新期日の呼出については抗告人代理人に対し民事訴訟法第一五四条に定める正式の呼出方法がとられておらず、いわゆる簡易呼出とみるべき方法がとられたにすぎないことは前記認定のとおりであるから、右の新期日に抗告人代理人(又は抗告人)が出頭しなかつたからといつてその不利益を抗告人に帰することのできないことについては多言を要せず、従つて、本件公示催告手続は未だ終了しておらず、本件はなお原審に係属中であると解さざるをえない。

これと異る見解の下に、本件公示催告、手続がすでにすべて終了したことを前提として同年五月二八日受付にかかる抗告人代理人からなされた新期日指定の申立を却下した原決定は、この点で取消を免れず、原裁判所は昭和四七年一二月二九日以後抗告人から新たな新期日指定の申立がなされたか否かにかかわりなく、同日に抗告人からなされた新期日指定の申立に基づきすべからく更に新期日を指定して本件手続の進行をはかるべきである。

よつて、民事訴訟法第四一四条、第三八六条を適用して主文のとおり決定する。(海老塚和衛 小林真夫 岡村稔)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定を取消す。

抗告の理由

一、本件約束手形公示催告申立事件について、昭和四七年八月九日午前一〇時を公示催告期日と指定されたが、右期日には申立人及び申立代理人(弁護士森田久治郎)のいずれも出頭しなかつたため、手続が休止となつたが、同年一二月二九日、申立代理人(弁護士森田久治郎)より新期日の指定申立がなされ、右申立により、同四八年一月一二日午後一時の新期日が指定されたところ右期日にも申立人並びに申立代理人(弁護士森田久治郎)は出頭しなかつたので手続は休止となつた。そこで再び同年五月二八日申立代理人(弁護士清水幸雄)より新期日の指定の申立をなしたところ、却下した。

二、却下の理由とするところは、公示催告期日に出頭しなかつた場合の新期日の指定申立権は唯一回に限られるが、本申立は二回目であること及び新期日指定の申立は公示催告期日より六カ月の期日経過後(指定された新期日よりは六カ月は経過していない)になされたものであるから不適法な申立であるとする。

しかし、右の判断は、民事訴訟法第七七一条の解釈を誤つたものである。

なぜならば、民事訴訟法には公示催告期日の新期日の申立権は一回に限る規定は存しないし、又同法第七七一条の解釈からも、特に新期日の指定申立権を一回に限定しなければならない理由は存しない。

又、同法第七七一条の規定は、新期日の申立は公示催告期日より六カ月の期間内に限り之をなすことを許すとあるが、新期日も公示催告期日となるのであるから、新期日より更に六カ月の期間内には再度新期日の指定申立のできることは右条文上からも明らかである。

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